抗生物質は使わないほうがいいの?
このごろ抗生物質の使い方についていろいろと議論されるようになってきました。今回は感染症と抗生物質の使い方についてお話させていただきます。
感染症ってなに?
子どもが熱を出す原因のほとんどは感染といって体のなかに微生物が繁殖することによるものです。
微生物の中で頻度が高いものが細菌とウイルスです。細菌感染はウイルス感染に比べ重症化しやすく命を奪うこともあり細菌感染をいかに治していくか、ということが人類の歴史の中では非常に重要なことでした。それに比べウイルス感染は頻度は高いものの軽症で死亡することが少ないとされてきました。
抗生剤ってなに?
人はなんとか細菌をやっつけようと細菌に対する薬(抗生剤)を作りだしました、その最初の薬がペニシリンと呼ばれるものです。その後抗生剤はいろんな種類の細菌や重症化した場合にも効くように改良に改良を重ね多くの人が助かるようになりました。いまでは飲む薬と注射の薬があり、また得意分野により何系統かに分類されるようになりました。
抗生剤の使われ方
抗生剤の細菌感染症に対する効果は絶大なものであり多くの人を助けてきました。しかし近年では抗生剤が簡単に手にはいるようになったため万能薬的な使いかたをされるようになってきました。”かぜ”の原因であるウイルスは一般的に軽症であり抗生剤も効果がないのにもかかわらず細菌感染を恐れるあまりこれらを”念のため”に使用するようになってきました。
抗生剤の悪影響
抗生剤を使いすぎると耐性といって、細菌がお薬に対し強くなっていきます。これが過度になると薬が効かない菌(耐性菌)が発生してきます。一旦耐性菌となってしまうとなかなか元にもどらず、耐性菌が悪さをして肺炎や髄膜炎などをおこすと薬が効かないため重症化してしまいます。つまり細菌感染を恐れるあまり、よけいに細菌を強くさせてしまうのです。
かぜに抗生剤は必要なの?
”かぜ(ウイルス感染)”に抗生剤は必要ありません、しかし、カゼという証明は大変難しく、診察を丁寧におこなったとしても”ウイルス感染であろう”としか言えない場合が多くあります(我々医師も簡単にかぜですね、といってしまうのですが)検査では近年のインフルエンザウイルスの様に検査が可能である場合もありますがウイルスすべてを検査する方法はなく、また逆に細菌感染であると証明するには培養といって結果がでるまで数日を要する検査になってしまいます。
抗生剤に対する考えかた
ウイルス感染であると証明できる場合については抗生剤は不要であるということは異論のないことだと思います。近年インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ロタウイルスなどでは迅速キットといって外来にて数分でウイルス感染であると診断できるような検査が開発されてきました。このなかでインフルエンザウイルスの検査は非常に有用で冬期の発熱時の抗生剤使用を大幅に減らしました。(これだけでも耐性菌の発生を少し抑えられるのではないかと思っています)問題はこれらの検査がない感染症をどうするかなのですが、私はウイルス感染を証明出来ない以上、現在の日本の状況(後に述べるワクチンの問題も含め)においては急性期(発熱時)は抗生剤の投与もやむなし、と考えています。なぜなら抗生剤は細菌感染症以外に使用しないことが理想ですが、細菌感染症であることを証明することは先程も述べたように大変難しいことなのです。以前から試行錯誤が繰り返されているものの抗生剤を投与しなかった患者の中にどうしても細菌感染が隠れている子どもがでてきてしまうのです。ただし使用する抗生剤の種類や期間について十分気をつけなければなりません。抗生剤を使用しない場合はより注意深い観察が必要と思います。
ワクチンという手もあるのですが。
欧米ではインフルエンザ桿菌と肺炎球菌という子供では比較的多い細菌感染症に対するワクチンが接種されるようになり重症細菌感染(細菌性の髄膜炎など)が激減しています。しかし日本ではいまだこれらの予防接種は行われておらず、細菌感染症については罹りやすく重症化しやすい状況にあります。日本の抗生剤使用量の多いことが悪いという話があるのですが、欧米の抗生剤使用量が少ないことにはこういう理由もあるのです。日本においてもこのような予防医学をもっと推進して欲しいものです。
抗生剤の種類
抗生剤の中には耐性菌を作りやすい、といわれている系統があります。この系統は一般的に飲みやすいため患者樣に好まれる傾向があります。しかしながらあまり飲みやすい系統ばかり使用していると耐性菌が増加していきます。耐性菌を増やさないためには患者樣の御理解も不可欠となります。
御理解いただきたいこと
細菌感染を押さえつけるために抗生剤は絶対必要なものであり、抗生剤は悪者ではありません。耐性菌の問題はありますが、抗生剤を細菌に効かせるためにどうするか、ということが問題になっているのです。ですから逆に細菌感染症と診断されたり強く疑われ抗生剤が処方された場合にはためらうことなく、きっちりと抗生剤を飲ましていただきたく存じます。


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